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少し、古い映画を見ていた。
『ペーパー・ムーン』(1973)
古典だからな、見てるやつも多いかもしれない。
アクションとは無縁のロードムービー。
ケチな詐欺師の男と、母親を亡くした少女の、シンプルで、だからこそスタンダードな名作ってやつだ。
紙の月――ペーパー・ムーンってのは、そのころのアメリカの写真屋に置かれてた、家族写真のお約束のモチーフでね。幸せの象徴、平和な家族のシンボルだ。
光るわけでもない、紙でできたつくりもの。
それでも、観る者が善き想いを投影すれば、ほんものの月よりも眩しい輝きになる。
この映画、元案では『アディ・プレイ』ってタイトル(原作小説のタイトルらしい)だったんだが、監督がこの、紙の月と少女のシーンを映画オリジナル要素として追加してまで改題したそうだ。
主演のライアン・オニールと、子役ヒロインのテータム・オニールは実際の親娘でもあってね。
作中の役柄でも、詐欺師が少女の父であることを暗示する描写もあり(詐欺師はそれを否定するんだが、この職業じゃあ、実際の血縁があっても認められないよなあ)、そういう意味でも、このシーン追加と改題は、絶妙なものだったんだろう。
この役者二人の関係性という文脈、そして、当時の文化における「紙の月」という位置づけにより、人々はシンプルな脚本の中に、様々な情緒を見出したのかもしれないな。
芝居は脚本だけにあらず。演技だけにあらず。役者個人の負う文脈にも、人は何かを幻視する。
演技とは。
舞台とは。
役者とは。
そんなことを考えるとき、このモノクロの映画を思い出す。
103分の、静かな映画だ。
機会があれば、休日の昼下がりにでも、見てほしい。