来年の夏、またここで。

 
※本作は第三回戦において 天龍寺あすかVS五十鈴陽乃 が実現していたら?のIFストーリーです。
時間軸は正史第二回戦終了後。ステージは運動場となります。
少し運命の違った世界の話をお楽しみいただければ幸いです。

 

「陽乃、お疲れ!」

「このままいけばマジで主演じゃん!頑張ってね!応援してるよ!!」

五十鈴【陽乃】の受けるべき称賛を受けながら私は日々を過ごす。

「ありがとう!応援してね!」

仮面をつけるのも慣れたもの。
ごく自然に言葉を返す。
脳髄の奥にチリリと痛みが走るがそれを意図的に無視する。

ここまでの厳しい戦いを経てなお、五十鈴陽乃は主演レースのトップにいた。
しかしその代償として、他人には見せないまでも深い傷を各所に負っていた。

靴箱に手を伸ばすとき、警戒心で胃がきりりと痛む。
至神かれんの仕掛けた画鋲が頭に浮かびどうしても慎重になる。

(神様ちゃんがもっと悪意を持って私に接していたならば、倒れていたのは私だっただろう)

黄昏時の西日を遮る長い影に肌が冷える。
あの鬱屈して鬱陶しく陰鬱な碧のシルエットが心を震わせる。

(あの人の演技はまさに悪魔と呼ばれるに相応しいものだった)

私と同じく月の道を歩いていたはずの青年の抱擁を思い出す。
俺が許す、と抱きしめてくれた体温が恋しいからこそ、一人の夜の寒さが辛い。

(親愛を切り捨ててでも、私は先に進まねばならなかったんだ)

五十鈴陽乃は主演レースのトップになるためになんでもした。
自身を追い詰めた『悪魔』酒力どらいぶには「五十鈴陽乃を闇討ち」という噂を流した。
自身を抱きしめてくれた『天才の弟』四波平月張には「酒力どらいぶへ暴力」という噂を流した。

そうして、彼らへの支持をほとんどそのまま奪ったのだ。

(私は、陽乃と違って地獄行きだろうな)

それでもいい。
喝采を浴びるべきであった【陽乃】。
主演に立つべきだった【陽乃】。
…大好きだった【陽乃】。

彼女を死なせてむざむざと生きていくくらいならば、血生臭い道を歩む事はまったく苦にならなかった。

今日も稽古を続け自身を高め、周囲に愛想を振りまき地盤を固める。
肉体と精神をくたくたにして、寮の自分の部屋に戻ろうとしたその時であった。

夕暮れの学園、帰りの廊下に遮るように仁王立ちをする影があった。
自信に溢れた立ち姿、特徴的なツインテール、二ッと音が聞こえるかのように上がった口角。

中等部の演劇エース、主演レース優勝候補筆頭、『ミス・パーフェクト』こと天龍寺あすかがそこに在った。

 

「…そこをどいてくれないかな?」

 

瞬時に警戒心をMAXに引き上げる。
五十鈴陽乃は当然天龍寺あすかのことは知っているし、主演を目指すうえで最大の障害と認識していた。
確かな演技力、卓越したカリスマ、周囲を巻き込む扇動力。
加えて『神様ちゃん』を叩きのめすほどの膂力も有している。

ただ酒力どらいぶなどと違い、辻斬りみたいなことをしてくる相手ではない、そう思っていた。
だからといって油断をしていいわけではない。

ヒリついた空気を出す五十鈴陽乃に、天龍寺あすかはスッと頭を下げ、同性であっても見惚れるような完璧な笑顔を向けた。

「五十鈴先輩。改めてはじめまして。先輩の演技は何回も見させていただきました。とても素晴らしい演技だと思います。…是非一度、大きな舞台でともに演り合いたいのですが如何でしょうか?」

丁寧な、丁寧な宣戦布告。

「…それはとても素敵だね、天龍寺さん。だけどゴメンね。今はとても忙しい時期だからさ。前夜祭が終わってからにしてくれるかな?」

五十鈴陽乃からすれば、天龍寺あすかの挑戦を律義に受ける道理はない。
五十鈴陽乃は現在支持率でトップに立っている。
主演確定まではもう間もない。
であるならば、わざわざ難敵と真正面からやり合うギャンブルなどする必要がない。

勿論「天龍寺あすかから逃げている」などという噂も生まれるかもしれないが、その程度の噂ではひっくり返せない程の票差を確保している。天龍寺あすかは中三だが五十鈴陽乃は高二。根回しをする範囲という点ではどうしても五十鈴陽乃に一日の長があった。

仁王立ちする天龍寺あすかの横を通り過ぎようとする刹那だった。
天龍寺あすかが一気に距離を詰め、耳元で静かに、そして確かに囁いた。

 

「月乃さん、と言った方が話は早いですか?」

 

それは、五十鈴陽乃にとっての死刑宣告。
その言葉を普段と変わらぬ完璧な笑顔で、丁寧に天龍寺あすかは告げた。

運命の幕を下ろす死神は、思ったより礼儀正しいのだな、などと的外れなことを五十鈴陽乃は思った。

■■■

来年の夏、またここで。

■■■

五十鈴陽乃は天龍寺あすかを空き教室に引っ張り込んだ。

「…天龍寺さん…君のことは色々聞いているよ。演劇もいくつか見させてもらった。中等部ナンバーワンという評価は伊達じゃないみたいだ…。そんな君にしては、随分とせこい真似をするんだね。嫌な嘘で揺さぶるなんてさ」

天龍寺あすかは【月乃】の名を呼んだが、努めて冷静さを保ち五十鈴陽乃は話した。
ただのハッタリかもしれないのにボロを出すわけにはいかない。

そんな反応も織り込み済みであったか、五十鈴陽乃の言葉を無視するかのように天龍寺あすかは畳みかける。

「言ったでしょう?先輩の演技は何回も見たって。学園に残っている映像は全て確認しました。ある日の演技だけ、先輩の演技の質がほんの僅かだけど変わっていました…そしてその【ある日】は五十鈴月乃が事故にあった直後…」

「やめて!私は大切な妹を亡くしたのよ?演技が少し変化したって…仕方ないじゃない…!あの日の私の演技には…弔いの想いが込められていて…」

白々しい嘘だな、と思いながら言葉を返す。

「先輩、貴方が本気でそれを言っているのならば、五十鈴陽乃と五十鈴月乃を甘く見過ぎだと思います。どんなに頑張ったとして、五十鈴陽乃の演技を即座に完全完璧に再現することは難しい。…そして、元々の五十鈴月乃の素晴らしさを消しきることも難しい」

近しい人間は事故直後の五十鈴陽乃の演劇を見て
(月乃が亡くなってまだ間もないのに、それを全く感じさせない。なんて精神力なの)
などと思ったらしいが、天龍寺あすかはそういった情で目が曇ることは無かった。
そもそも情が無かった。

酷く冷徹に映像を分析し、事実に辿り着いていた。

「もしまだ違うと言い張るのでしたら、こちらも見ていただけますか?」

天龍寺あすかは、五十鈴陽乃の目前にスマホを差し出し、映像を再生させた。

■■■
「何でそんな悲しいことを言うんだ。あらゆる願いが叶う奇跡を勝ち取れば、きっと陽乃も取り戻せる。それでいいじゃないか!」
「それじゃ駄目なのよ! 私のせいで、陽乃は命を落としたのよ!」
「月乃!?」
「陽乃が生き返っても、私が陽乃を殺した事実は消えないの! だから『月乃』は許されてはいけないのよ!」
■■■

五十鈴陽乃の血の気が一気に引いていく。

「学内でこういう話をするのはお勧めしないですよ。今この学園は鐘捲家の財力で万全のセキュリティがなされていますから監視カメラだらけです。まぁ、内部での犯罪行為による票取りと、外部からの鐘の奪還に対して警戒しすぎたシステムでセキュリティに少し隙があったのでハッキングさせてもらいましたけど」

なんでもないことのように最高峰のセキュリティに侵入したと告げる。
この天才が、五十鈴陽乃の目には正しく死神のように映った。

「…望みは何…」

乾いて掠れた喉からどうにか言葉を絞り出す。

「言ったじゃないですか。ワタシは全力の貴方と演り合いたい。それ以上はありません」

その言葉を信じていいのか。
少しだけ悩んだが、乗らないという選択肢は五十鈴陽乃に残されていなかった。

「分かったわ…演目は?」

 

「『セイムタイム・ネクストサマー』でお願いします」

 

その演目を聞いた瞬間、五十鈴陽乃は胸が一つ昂るのを感じた。

『セイムタイム・ネクストサマー』

二人芝居の傑作と名高い作品である。

舞台は狭く古いアパルトマンの一室。
登場人物は【年上の少女】と【年下の少女】の二人だけ。
酷く暑い夏の日。
二人の少女は同じ部屋で年一回の逢瀬を続ける。
家庭の事や将来の事、たわいもない世間話が続けられる穏やかな空間。

この二人芝居の大きな特徴は、その二人の少女の毎年のやり取りを、50年以上・ ・ ・ ・ ・演じる点にある。

18歳の【年上の少女】。
15歳の【年下の少女】。

場面が一つ切り替わるたびに5年が経過する。
18歳の年上の少女は23歳になり、28歳になり、33歳になり、38歳になり…
15歳の年下の少女は20歳になり、25歳になり、30歳になり、35歳になり…

年月を積み重ねるうちに二人は別に家庭を持つ。子供も産んだ。
それでも、関係は途切れずにまた暑い夏が来る。

喧嘩もした。何も話さないで終わる日もあった。
────それでも、また暑い夏に彼女たちは逢う。

 

二人芝居は、ただでさえ各々の力量が残酷なほどに浮かび上がる舞台であるが、『セイムタイム・ネクストサマー』は、更に10代の少女から老婆まで演じ分ける表現力が求められる。

その特性故に、天凌学園でもこの演目が行われたことはほとんどない。
実力の拮抗したハイレベルな役者が揃わなくては目も当てられない凡作となり果てるからだ。
『セイムタイム・ネクストサマー』を選んだという事は、相手と自分の実力を高く認めていることの証左である。

「…天龍寺さん。本気なのね?その演目を持ってくるということは、本気で、ただただ全力で私と演りあいたいのね?」

五十鈴陽乃の秘密を知った以上、天龍寺あすかは幾らでも裏工作が出来る立場にあった。
新聞部あたりに上手く情報を流せば労せずに五十鈴陽乃の支持を下げることが出来ただろう。

しかし天龍寺あすかはそれをしなかった。
主演レース首位を走る、『天凌の陽光』を勝負の舞台に引きずり出すためだけに秘密を用いた。

その在り方が五十鈴陽乃には眩しかった。
そうして、その眩しさに立ち向かう熱情が自分に在ることを嬉しく思った。
早い話が、真正面から売られた喧嘩に、五十鈴陽乃は全力で乗ることにしたのだ。

(五十鈴【陽乃】ならば!逃げずに立ち向かって主演となる!)

「場所は?」

「運動場」

「いつ?」

「一週間後の土曜16時」

「舞台のセッティングは?」

「求道匠先輩」

「音響は?」

「羽曳野琴音先輩」

「衣装やメイクは?」

「各々が信頼できる者を」

「どちらを演じる?」

「ワタシが年下、五十鈴先輩が年上を」

あっという間に条件が整っていく。

「やる気になってくれて嬉しいです。では…」

そう言って、軽やかな動作で天龍寺あすかはスマホに残っていた証拠映像を削除した。

「これが気になって本気が出せないとかでは本末転倒ですから。…もう逃げないでしょう?」

 

■■■

 

────一週間後。

運動場には多くの観客が詰めかけた。
求道匠率いる大道具集団が作り上げた即席の舞台が中央に鎮座する。
そしてそれを取り囲むように同じく即席の観客席。
より多くの観客に、より様々な角度から見てもらい優劣をつけるための処置であった。

始まる前からすでに熱気が満ちている。
主演候補最有力同士のぶつかり合いに、期待が高まらないはずがない。

 

その熱気の中、年上の少女役、五十鈴陽乃が舞台に上がった。

『今日も、暑いわね』

五十鈴陽乃が、年上の少女として気だるげに視線を下に向け呟いた。
その瞬間、誰知らず、観客から「えっ」と一つ、困惑の声が上がった。

五十鈴陽乃の視線一つ台詞一つで、そこには古びたアパルトマンの一室が顕現した。
油がこびりついた換気扇の耳障りな音が聞こえるかのようだった。

舞台に用意されていた小道具は普通の市販品のソファーだけであったが、それすら何年も使い古したボロのように見えた。動作の一つ一つが、リアルな空間を見るものに想起させた。

「…これは…ちょっと凄すぎないか?」

誰かが溢した。
高等部エース、『天凌の陽光』の名に恥じぬ演技と表現力。

これはもう決まったのではないか?

そんな空気が流れる中、年下の少女、天龍寺あすかが舞台に上がった。

『先輩!お疲れ様です!』

爽やかな声で挨拶が響く。
ふう、と息をつき額に浮かんだ汗をぬぐう。

またしても観客から「えっ」と一つ声が飛んだ。
天龍寺あすかが舞台に現れた瞬間、周囲の温度が跳ね上がったような気がしたのだ。

五十鈴陽乃が作り上げたアパルトマンの一室が、真夏のアパルトマンへと変質していく。
文化祭が近づく今は秋口。涼やかな風が運動場に吹きすさぶ。
にもかかわらず、人々は天龍寺あすかの服が汗で肌に張り付く様子を幻視した。

真っ青に抜ける空と、どこまでも白い入道雲を見た。
キンキンとうるさい蝉の声を聞いた。

一流の魔人演者が二人、全力を絞った結果立ち上がった夢舞台。
古びたアパルトマンを目に捉えないものは誰もいなかった。
観客は自然と背が伸びるのを感じた。

皆直感したのだ。

この舞台は凄まじいものになる、と。

■■■

『あーあ、宿題、だるいなぁ…量多すぎるんですようちの学校…』

『あらあら、ちゃんと早いうちに済ませとかないと痛い目を見るわよ?』

少しやんちゃな感じのする年下の少女と、それをたしなめる年上の少女。
なんでもない会話が続けられる。
穏やかで波はどこにもない。
しかしだからこそ、観客はその先の動きに身構えた。

『じゃあ、先輩。また。』

『ええ、来年の夏、またここで。』

照明が落とされる。
そうして二人は舞台裏に戻る。

────5年の月日が経つ。

舞台裏では、5年分の歳月を重ねるために衣装交換とメイクが行われていた。
高等部の演劇部精鋭たちが五十鈴陽乃を飾る。

「…陽乃、天龍寺の奴は確かに天才かもしれないけどさ!私たちが支えたいのは貴方だ!最高の舞台を見せてくれ!」

中等部の演劇部精鋭たちが天龍寺あすかを飾る。
高等部に比べたらやや劣るところはあったが、それでも皆は自分たちのエースを自らの手で送り出したかった。

「この日のために、古院先輩つながりで水火金さんにアドバイスをもらってきたから…!」
「ぼくは、不破様に頭を下げて聞いてきた!」

そんな感情で出来が変わるかどうかは分からなかったが、仲間たちの想いを無下にするのは“マシ”な生き方ではないので天龍寺あすかはそのまま受け止める。

照明が再び灯される。

観客が小さく歓声を上げた。

そこには23歳となった年上の少女と、20歳になった年下の少女がいた。
間違いなく二人には5年分の歳月が刻まれていた。
何か魔術でも使ったかのようにしか見えなかった。

メイクと衣装の効果もあるが、何より大きいのは基本的な演技力だ。
立ち振る舞い、姿勢、視線。
それらが年齢以上の風格と色気を生む。

若さと成熟がちょうど合致した美しさが二人からあふれていた。

『久しぶりですね。先輩』

『そうね。また一年ぶりね』

再び始まる何気ない会話。
15だった年下の少女はかつてのような腕白な気配が消え失せ落ち着きが生まれていた。

15歳から見た18歳は遥かな年上であるが、
20歳から見た23歳は手が届かない存在というわけではない。

二人の間にある空気感が少し変わる。
かつては年上の少女が一方的にたしなめる側であったが、既にそういう関係ではなくなっていた。

■■■

────更にまた5年が経過した。

年上の少女28歳。
年下の少女25歳。

二人は例年のようにアパルトマンに集まりながらも、会話をしなかった。
この5年に何があったのか。描写されていない逢瀬に何があったのか。
観客は否応もなく二人の生む関係性に引き込まれていく。

会話はないが、ギスギスした空気感ではない。
むしろ熟年夫婦のような阿吽の呼吸がある。

てきぱきと年下の少女が料理をする。
勿論そう見えるように演技する天龍寺あすかのマイムであったが、観客は綺麗に焼き上がったオムレツとパリッと瑞々しいサラダが机に並べられていくのを見た。

年上の少女はゆったりとコーヒーを入れる。
五十鈴陽乃の生む穏やかな表情からは、そのコーヒーが上物で、おそらくは今日のために用意された逸品であろうことが推察された。

二人とも何も言わずに料理を楽しみ、コーヒーを嗜む。

ゆっくりとした食事を過ごした後、どちらともなく同時に言った。

『来年の夏、またここで。』

 

────更にまた5年が経過した。

 

年上の少女33歳。
年下の少女30歳。

舞台には年上の少女しかいなかった。
彼女は気だるげにソファーに身を預けていた。

不安と不快さが入り混じった仏頂面だった。
この5年に何があったかは分からないが、“何か”があったのは明白だった。

もしかしたら年下の少女はこないかもしれない。
そう観客が思い始めたタイミングで年下の少女は舞台に現れた。

全身が不安と緊張にこわばり、直前までここに来るかどうかを悩んでいたと分かる表情だった。
より成熟した女性になったはずであるのに、5年前より頼りなく幼く見えた。

一瞬だけ年上の少女の顔が明るく輝いたが、すぐに元の仏頂面に戻った。
そうして何も言わずにソファーで寝返りを打ち、年下の少女に背を向けた。

『ねぇ…こっちを見てよ』

年下の少女は、もう先輩とは呼ばなくなっていた。
泣きそうな顔で、振り絞るように叫んだ。

『こっちを!見てってば!!』

舞台に静寂が満ちる。
アパルトマンの窓を、雨が強く叩いた。
そんな気がした。

年上の少女は何も返さない。
あれだけ年上として振舞ってきた少女が、今は酷く大人げない姿を見せた。

『…ねえ、私、産んだよ。あの人の子供…。彼は愛してくれているし、子供も可愛くってさァ…』

だから、もうここには…

言葉を続けようとした瞬間、年上の少女がソファーから跳ね起きた。
そうして、年下の少女の顎を掴むと、勢いとは裏腹の静かで軽い口づけをした。

年上の少女が軽く口づけをした瞬間、演劇を見慣れているはずの天凌生徒から「ほぅ」と一つ溜息が漏れた。感心と興奮と困惑の入り混じった溜息だった。

「…どうしたらあんな口づけが出来るの…」
「なんて解釈と表現力だよ…」
「酷い…けど、だけども!美しい…!」

年上の少女の口づけに情欲は無かった。
友情は無かった。
そして、愛情すらなかった。

敢えて何か表現するならば、“束縛”の口づけであった。

嫌ってはおらず。
さりとて愛しているとも言わず。
生ぬるい関係のまま年下の少女の心を仮止めする残酷な口づけ。

暖かいようで冷たく、冷たいようで暖かい、情念を滅茶苦茶に煮込んだような口づけであった。

 

(────嗚呼、自分が嫌になる)

 

五十鈴陽乃はひっそりと自己を嫌悪する。

五十鈴陽乃の脳裏には、あの日の中庭の景色が浮かんでいた。

■■■
「俺が全部、許すから……。自分を価値のない者だなんて……思わないでくれ」
「……」
「大好きなんだ……。月乃のことが……」
「四波平……くん……」

「ありがとう。死んだ月乃も、きっと空の上で喜んでいるよ」

――ああ、何て、白々しい演技。
■■■

あの日。中庭。

私はもっとハッキリと四波平くんを拒絶することが出来た。
むしろ拒絶するべきだった。

お前は何を言っているのだ、と。
死んだ【月乃】を幻視して抱きしめるなど気持ち悪い、と。
五十鈴【陽乃】が死んだなんてありえない、と。

 

「ありがとう。死んだ月乃も、きっと空の上で喜んでいるよ」

 

あんな言い方をしたら、優しい四波平くんは私を諦められないことなんて分かっていた。
未練に思ってくれることなんて分かっていた。
五十鈴【月乃】を心に刻んでくれるなんて分かっていた。

それを分かっていて、私は楔を打ち込みたかったのだ。
私が願いを叶えて、五十鈴【陽乃】を蘇らせた正しい世界に消えていくとき、一人でいいから私を想って泣いてくれる人がいて欲しかったのだ。

────なんて、醜い未練。

相手を束縛し、自分だけ綺麗に去ろうとするエゴ。
あまつさえ、そんなエゴを経験として演技に昇華している。

(嗚呼。私はどうしようもないなぁ…あんな酷いことをしておいて、『これも演技の糧になる』なんて心の奥底で思ってさぁ!!そんなグロテスクな演技を恥ずかしげもなく披露してさぁ!)

 

もういい。

もう、それでいい。

五十鈴陽乃は醜く卑屈な自身を見つめた。
姉のために自らを犠牲にしようと決意しながらも、跡を残したがる自身を見つめた。
エゴにまみれた有り様を、図々しくも演技に組み込む自身を見つめた。
想い人すらも踏み台にする自身を見つめた。
見つめて、見つめて、認めた。

これでいい。

醜かろうと、みっともなかろうと、これが今できる最上の演技なのだから。
【陽乃】に【月乃】が捧げることが出来る至上の舞台なのだから。

 

今ここに、主演に向かいひた走る修羅が完成した。
それは陽の光無くては輝けぬ月の瞬き。
自身に熱を持たぬ鏡のような光。

されど、漆黒の闇に煌々と輝く白銀の輝きであった。

天に輝く至上の才を、月が一つ追い詰める。

 

『来年の夏、またここで。』

 

年上の少女は、艶やかに笑った。

■■■

また、5年が経った。
五十鈴陽乃と天龍寺あすかは舞台裏に回り5年分の月日を身にまとう。

観客は『セイムタイム・ネクストサマー』の筋を知っているにも関わらず妙に緊張をした。
あの口づけを受けた年下の少女は、どんな想いでまたこのアパルトマンに戻ったのか。
5年という歳月は二人をどのように変えたのか。

見てはならないものを見るような、喉の奥が乾くかのような不思議な感覚。

ピンと張りつめた空気を破るように二人が舞台に戻る。

年上の少女38歳。
年下の少女35歳。

二人ともふっくらと肉がついた姿になっていた。

『久しぶり!一年ぶりね~!』
『年取ると一年なんてあっという間よぉ!』

5年という月日は偉大だったのか、また“何か”があったのか。
二人はほがらかに笑い合う。

『そういえばね、二人目、産んだの。彼が欲しいっていうし私ももう少し賑やかにしたかったからさ…』

そう言ったのは年上の少女だった。
歳月は二人を母親にし、別々の家庭を持たせていた。
二人ともケラケラと笑った。それは仲のいいママ友の井戸端会議のような賑やかさ。

その賑やかさに、観客は気持ち悪さを感じた。
二人が、気持ちを隠し、薄皮一枚隔てたような距離感で接していると感じたからだ。

18歳の年上の少女と
15歳の年下の少女の気の置けない関係を知っているからこそ、観客はもやもやした。

そんな観客を置いてけぼりにして、二人の時間は進んでいく。

『息子が大学受験でさァ』
『お義母さんにはうんざりよ』
『お腹周りが最近はね』

『来年の夏、またここで。』

『ぼっちゃん、良いところに就職できたじゃない!』
『ええ?娘さん、もう結婚するの?』

『来年の夏、またここで。』

『まさか孫があんなに可愛いなんて思わなかったわ』
『年を取るはずよね、私たちも』

『来年の夏、またここで。』
『来年の夏、またここで。』
『来年の夏、またここで。』

■■■

どれだけの月日が過ぎただろうか。
二人は既に老婆と呼ぶにふさわしい姿になっていた。
それでもまた、灼熱の道を歩んでこの古いアパルトマンで顔を合わせた。

『ねえ、先輩』

酷く久しぶりに、年下の少女は先輩と呼んだ。
その意味を理解できない程年上の少女は鈍くなかった。

『半年前ね、旦那が亡くなったの。最期まで私を愛してくれた、私なんかにはもったいない良~い旦那だったわ』

『…私の旦那も二年前に亡くなってる。息子たちも別に家族を持った。…穏やかで…静かな老後ってやつね…』

沈黙。
静寂。
痛いほどの静けさが舞台に満ちた。
風が一つ吹きすさんだ。

風がやんだ後、年下の少女は沈黙を破った。
50年分の沈黙を破った。

『先輩…私は先輩のことが…』

言いながら駆けだしたが、年のせいか足がもつれ、年上の少女に体を預ける形になった。

その瞬間、観客席から小さな悲鳴が上がった。
年下の少女の体があまりに軽かったのだ。軽そうに見えたのだ。

それはまるで命を感じさせぬ重さ。

年下の少女は長年病を押し隠してここに来ていたのだ。
そうして、もはや命の灯は消えかけているのだ。

観客はそれを一瞬で理解できた。
あまりにも存在の薄い虚無めいた有様。

「なんだあれ…」
「あれが本当に、あのキラキラした天龍寺か…?」
「どういう演技力だよ…精力も何も感じさせない!」

観客が大きくどよめく。
天龍寺あすかは、全て仮面を外し、自らの内面に在る虚無を演技に乗せていたのだ。
自身にある全てを用いた渾身の演技だった。

【自身の虚無性は見せずに社会に好かれるようにすれば“マシ”に生きていける】

そう悟った幼き日から、天龍寺あすかは常に仮面をかぶって生きてきていた。
他者に好かれる存在として完璧に振舞い、伽藍洞の心を持っていることなど誰にも気づかせなかった。

その天龍寺あすかが、常に保っていた演技を薄皮一枚残さず捨て去り、素の自分を老婆に映した。
こうしなければ勝てないだとか、そういった打算の結果ではなかった。
天龍寺あすかは、ただより良い演技を目指し、その結果として“普段の演技”を一瞬忘れ去ったのだ。
それほどまで、五十鈴陽乃との演じ合いは白熱したものであった。

年上の少女の唇が震える。
顔面から血の気が引いていく。

『…貴方…!ずっと、ずっと演じていたのね?何もかも平気な振りをして…!』

観客はその台詞に二つの意味をくみ取る。
年下の少女は何年も病に蝕まれていることを隠し、平常を演じて真夏の一室に戻っていたこと。
自身の年上の少女に対する想いを押し殺し、ただの後輩を演じ続けていたこと。

束縛しておきながら後悔し
想われることに感動しながら涙する様々な感情が入り混じる珠玉の演技を五十鈴陽乃は見せた。

しかし、五十鈴陽乃の台詞が三つ目の意味を持つことを観客は気付かなかった。

『ずっと…ずっと演じ続けて…ここまで駆けて…』

老婆として身を預ける天龍寺あすかに、五十鈴陽乃は絶望的なまでの虚無を見た。

天龍寺あすかの演技。
一般人であれば、「凄い演技だ」で終わっただろう。
演劇に詳しい人であれば、その異質と言っていいほどの深い虚無を込めた姿に鳥肌を立てただろう。
一流の役者であれば、今までと方向性がまるで違う演技に驚嘆しただろう。

しかし、五十鈴陽乃はその一歩先に在った。
ともに『セイムタイム・ネクストサマー』を作るために、演劇というこの上もなく濃い交流をした五十鈴陽乃は、天龍寺あすかの虚無の演技に真実を見た。すなわち、

【こちらの虚無が、天龍寺あすかの本質である】
【誰にも好かれる天才、『ミス・パーフェクト』としての生き方は虚構である】

と気が付いたのだ。今まで誰も疑いもしなかった真実に、一瞬で辿り着いたのだ。

五十鈴陽乃は、天龍寺あすかが嫌いだった。
姉と同じ光を浴びる天性の生き方を軽々と歩む姿が妬ましかった。

才能があり何でも出来るのならば、わざわざ私の願いを邪魔するなと、舞台以外にも生きる道はあるだろうと、そう思っていた。

しかし、違ったのだ。
自分が今まで嫉妬の瞳で睨んでいた相手は、天龍寺あすかが演技により作り出した仮初の存在だったのだ。天龍寺あすかにも、舞台しか道は無かったのだ。

自らの虚無を常に押し隠し、心を見せず、二十四時間別の存在として振舞う。
破綻の一つも見せずに、パーフェクトに。

五十鈴【月乃】は五十鈴【陽乃】を維持する生活を一年程度続けただけで心身ともに疲弊しているというのに。
ボタボタと涙が頬を伝った。
それが年上の少女のものか、五十鈴陽乃のものか、それは自分でも分からなかった。

『────私の負けよ』

 

その言葉が二つの意味を持つことは舞台上の二人以外誰も気付かなかった。

『もう、私も気持ちを隠さない。貴方の気持ちからも逃げない。だから、だから…』

 

『…来年の夏、またここで。』

それは、もはやどちらの台詞か分からなかった。
本当に来年会えるかどうか分かりもしない。

どうしようもない虚空への口約束かもしれない。

ただ、それでも来年が来るとしたら。
彼女たちはうだるような暑い夏の日に狭いアパルトマンの一室で顔を合わせるのだろう。

年上の少女と年下の少女として。

■■■

万雷の拍手が運動場に満ちる。
あちこちからすすり泣く声が聞こえる。

どちらが勝ったかなど、野暮なことを言う客は一人もいなかった。
ただただ、最高の舞台を生んだ二人に熱狂し称賛した。

気力を使い果たし汗にまみれた二人は観客に深々とお辞儀をした後、舞台から去っていった。
いつまでも、いつまでも拍手は鳴り続けた。

その夜。

五十鈴陽乃は天龍寺あすかを校舎裏に呼び出した。
そうして告げた。

「…私は何をしても主演を掴む。…だけど、舞台の上での感情に嘘をつくことはできない。今日のところは私の負けよ」

酷くあっさりと五十鈴陽乃は敗北を認めた。

「そこに隠れている新聞部さん、さっさと記事にしたら?」

五十鈴陽乃の言葉にビクリと体を震わせて物部鎌瀬は物陰から飛び出て去っていった。
今日中にでも、五十鈴陽乃敗北の報道は天凌学園を駆け巡るだろう。
高等部エースの敗北宣言は電撃的に広まるだろう。
五十鈴陽乃の夢は、大きく後退することだろう。

それでも、【陽乃】と自身を繋げる舞台での結果を裏切ることは彼女には出来なかった。
そうして、真っすぐに、力強く、遥かに成長した眼差しをもって天龍寺あすかを貫いた。

「【五十鈴陽乃】は、同じ相手には二度と負けない」

 

『────前夜祭の夜、また舞台で。』

五十鈴陽乃は真っすぐに歩く。
一度も振り返らずに。この敗北は彼女をまた一つ強くする。
そう確信が持てるような雄大な背中であった。
観客がいないことが惜しくなる、儚くも美しい去り方だった。

■■■

天龍寺あすかは考える。

(自身の虚無性について、五十鈴陽乃は気付いただろう)

五十鈴陽乃の最善手は、この事実を誇張し、強調し、学園に広めることだ。
観客は舞台という虚構の場を好みながらも、嘘は嫌う。
社会に好かれるように仮面をまとっていたという事実は、少なからぬ人々を不快にさせるだろう。

で、あるならば。

天龍寺あすかは考える。
中等部のクラスメイトと演劇部の仲間には、先手を打って事実を話しておくべきだろう。
誇張した事実を広げられるより、先んじて告白した方が被害は少ない筈だ。

天龍寺あすかは、五十鈴陽乃を信頼するなどという事は出来なかった。
同じ舞台で高め合った仲ならば、相手の暗部を晒さないだろう、などと言う楽観的な考えが出来なかった。

行動は迅速果敢に。
すぐに天龍寺あすかは中等部の仲間を集めて告白をした。

自身の今迄の振る舞いは仮面であったと。
本当の自分の心は凪いでおり、乾いており、演劇以外では特段動かないと。
ただ社会に溶け込むために最も“マシ”な選択肢を選んでいただけであると。

天龍寺あすかは余さず話した。

この告白により孤立を招く可能性はあったが、
「まぁ、そんなものだろう」
としか思わなかった。少し“マシ”でない生き方になるだけだ。
この期に及んでも、天龍寺あすかの心は乾いていた。
今はただ五十鈴陽乃に対しての最善手を打つだけであった。

天龍寺あすかの告白に、仲間たちはキョトンとした間の抜けた顔を晒した。
そうして、誰ともなく笑い始めた。
ゲラゲラと、下品に笑った。
教室は、笑いの渦に巻き込まれた。

皆は、天龍寺あすかに対し、馬鹿・ ・を見る目を向けた。

 

そんなの普通じゃん?・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

クラスメイトの一人の男子は当たり前のように言った。

席が隣の女子は自然に笑った。

「いや~…あすか、思ったより馬鹿なこと言うんだもん。笑っちゃった~。誰だって盛るに決まってんじゃん!」

「だよねー。ダルいわーと思いながら『超嬉しいんですけど!』って言うなんて当たり前じゃん」

「…え?むしろそんなことを悩んでたの??」

偽善であれど善は善、というように。
天龍寺あすかの人に好かれるための動きは、本心でなくとも正しく作用していた。
仲間たちは仮面の行いであれど天龍寺あすかをとても好いていた。

それが本心とはずれていても構わないと思った。

それは、天龍寺あすかの虚無性を甘く見ている戯言だ。
自分と同じ、思春期の意地っ張りの一環として片づける浅い行動だ。

ただ、天龍寺あすかにとっては、自身の虚無をその程度・ ・ ・ ・の話と切り捨てられることは、確かな救いであった。

誰にでもあることだと。
その程度で悩むなんて馬鹿だと。
仮面をかぶり演じることを含めてその人間なのだと。
彼ら彼女らは無邪気に笑ったのだ。

パキリと、何かが割れる音が天龍寺あすかの胸に響いた。
世界の彩度が上がっていく感覚がした。

そうして、天龍寺あすかは思った。
我知らず、彼ら彼女らの日常に支えられていたからこそ自分は舞台に立てていたと。
今日の舞台で自身を着飾ってくれたように、皆の力があったからこそ主演を目指せていると。

演劇は一人で作るものではないと。

そんな当たり前のことを天龍寺あすかは改めて理解した。
仲間たちに、そんな当たり前のことを教えられた。
そうして、「教えられる」ということが初めてであることに今さらながら笑った。

『神様ちゃん』。
『悪魔』。
『神出鬼没の子狐』。
『お付きの人』。
『密林の伝道師』。
『天凌の陽光』。

そして、『天才の弟』。

彼ら彼女らを捻じ伏せ、胸の熱を広げて主演に立つつもりであった。
『ミス・パーフェクト』は一部の隙も無く主演への道を完走するつもりであった。

だが、演劇は一人ではできない。一人ではできないのだ。

ならば、天才がすべきことは。
奇跡の鐘を鳴らすためにすべきことは。

主演候補者たちを打ち倒すのではなく、まとめ上げて最高の舞台を作り上げること。

その舞台に相応しい脚本を書ける者は誰だ?
その舞台に相応しい音楽を奏でられる者は誰だ?
その舞台に相応しい演出を出来るのは誰だ?

『神様ちゃん』にはどんな役がいい?
『悪魔』をどう暴れさせる?
『神出鬼没の子狐』をどう輝かせる?
『お付きの人』に相応しい演出は?
『密林の伝道師』をどう引き込む?

『天凌の陽光』と何を演じ合う?
『天才の弟』をどう跳ばせる?

考えなくてはいけないことは山ほどあった。
そうして、その思考と試行が酷く楽しかった。

そう。楽しかったのだ。

天龍寺あすかの胸に在る小さな炎がどんどんと大きくなる。
天龍寺あすかは『俯瞰症』を発動。
自身の血圧、脈拍、体温が上がっていくことを観測した。

準備と思考の段階でここまで胸が高鳴るのならば、舞台を完遂したなら、どうなってしまうのだろう。
もしかしたら、もしかしたなら。
初めて舞台の熱を知ったあの日のように、自身ですら制御できない感情の波が胸に宿るかもしれない。
もしかしたら、もしかしたなら。

それ以上の────

「…最高の舞台に、したいわね」

(本心である)

「皆がいなきゃ、私はここまで来れなかったわ」

(本心である)

天龍寺あすかは、壁に貼られた学生新聞を見る。
主演レースの候補者達を見る。

「…愛しているわ」

(驚くべきことに、本心である)
(天龍寺あすかにとっての愛が、世間一般でいうところの愛であるかは分からない)
(しかし天龍寺あすかは、これが愛だと思った)
(抱きしめたくなる熱情を)
(主演を争う皆に対する敬意を)
(演劇という存在に対する想いを)
(自分を信頼してくれる皆に何かを返したくなった気持ちを)
(天龍寺あすかは、愛と呼びたかった)

強固なる仮面は消え去った。
あとは、天才が想うままに駆け抜けるだけである。

この舞台は、成功をする。

(IF)END

 

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