奇跡は天にあり、我等天を凌ぐ

求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。
誰でも、求める者は受け、探すものは見つけ、門をたたく者には開かれる。
『マタイによる福音書』7章7~8節

☆ ☆ ☆

天凌学園新聞77号
天凌学園インタビュー「突撃!あの名優たちは今!?」
取材・執筆 物部鎌瀬

「天凌の悪童」綾小路リョータさん
うるせえな、ブン屋。散れ。散れ。
あ゛あ゛!?喧嘩売ってんのか?そりゃあ俺でも失敗することくらいあるさ。
…だからってあきらめたわけじゃねえよ。演劇なんてガラでもないことやるよりも、よっぽど俺の性に合ってる方法を見つけたからそっちでやるってだけだ。
ええいうるせえ!ヒビキもショウもブン屋も黙れ!俺が色恋に現を抜かしてるように見えるか!だれが白雪姫の王子様だ!潰す!つぶーす!
(ぼこすかぼこすかぼこすかぼこすか)

「不破様」不破煉さん
んー?別に主役の席を逃したからってレンは動じてないよー?
いや悔しいよー?悔しいってこととだからどうこうっていうのは別っていうだけ。敗けたんなら、その敗北を糧にするまでのことだもの。
それにあの舞台は、僕もかなーりよかったと思うよー?奇跡っていうのも好きだけれど、ああいう結末は…うん、とっても運命的!

「流星の姫君」水流園星夢さん
何度目なの、その話。
力及ばず主役の座には届きませんでした。以上。ありふれた失敗、ありふれた挫折でしょう?
それはそれで悔しいけれど、結果としてはそう悪いものではなかったと思うわ。
風紀委員としてはアイツは要注意対象のままだけれど、個人的な思想としては嫌いじゃないわ。…好きでもないけれどね。

「しゃちちゃん」盲心のサマエルさん
わーお。私のところにまで取材に来るなんて、すごいジャーナリズム。
そうね。私としては、大、大、大満足!
特に奇跡をあんなことにしちゃったのが、もうさいっっこう!

「屋上の一人オーケストラ」長門艶奏さん
結果に不服はない。まあ勝ち負けで言えば負けたということになるのだろうが…それにいちいち文句を言いはしないさ。
あの舞台か?ああ、それはもちろん大満足だとも。僕のようなものにとっては、特に嬉しい結末だった。
だから―僕も、望むものを掴んでみせるさ。

「ミス・ギムナジウム」中山ギムナさん
んん?儂のところに来るとは命知らずがいたものよ。まあいい。今日の儂は機嫌がいい。質問に答えようではないか。
はっ、何かと思えばそんなことか。決まっておる。また50年後に来るまでよ。
ん?儂が100年や200年で耄碌するように見えるか?奇跡の鐘を手に入れるまで、誰にも儂を止められん。時の流れさえな。くかかかかかか…

「櫻嵐の先導者」古院櫻花さん
ええ、悔しいです。この上なく悔しいですとも。
でも、あの舞台は素晴らしかった。―そして、彼女には嘘が無かった。
『あなたの人生を変えます』って、私は宣言してた。
だからまず、自分の人生を変えなくちゃ。その方法は、あの日しかと見たから。

「ゲリラテンペスト」大嵐閃里さん
私のハートの最大瞬間風速!もう更新されっぱなし!
ええ、ええ!まこと綺麗に敗けました!こうも綺麗にやられては、沸き立つ衝動、内なる風が暴れっぱなしです!私の理想とするパフォーマンスだった、と言ってよろしいでしょう!
今日のところはこれにて失礼、いつかまたの機会、私が大スターになったその時に、またお会いいたしましょう!今日は行くべき場所があるので!また今度!

「冤罪王子」ゴシチゴデケツブッテ・イクイク・チンポソイヤさん
ええ、私はただ望まれるようにあるだけ…と、思っておりましたが。少しばかり、考えが変わりました。
己の望みを。いっそ人から望まれる以上に。100を求められれば、120どころか200の結果を出すほどにありましょう。最近は偏見も減ってきたことですしね。
ええ、ええ。より一層実りある留学になりそうです。『天凌の 頂凌ぐ 青雲や 天を見越して 我星たらん』ふふふ。五七五七七です。

「地学室の自動人形」白木鉛さん
コ・イ・ヌール。知っているかい?世界で一番有名なダイヤモンドだ。今ではイギリスのロンドン塔にあるこのダイヤモンド。『光の山』を意味する名を持ち、世界最古のダイヤモンドと呼ばれ、多くの人々、時の権力者が追い求めた伝説の宝石。
今回の『奇跡の鐘』は、さながらコ・イ・ヌールさ。数多の人々が追い求め、強い思い、強い願いを見せた。素晴らしい輝きだった。
でも知っているかい?コ・イ・ヌールの有名な逸話。イギリスに渡ったコ・イ・ヌールは…カッティングし直されているのさ。削って。割って。一回り小さくなって―
でも、それまで以上の、素晴らしい輝きを放っているんだ。
僕は彼女の『カッティング』を支持するよ。

「かげろう」紙屋朔さん
なりてえもんが、あったんや。言わすなや。恥ずかしい。てっきり奇跡でもなきゃなれへんと思ってたけどなあ。
…意外と、なんとかなるんちゃうか?ってな気が、最近してきてなあ。いやあ別に根拠があるわけじゃあないんやけども。なんだかなあ。ええいうまく言葉がまとまらん。なんだかふわふわした気分や。でも悪い気はせえへん。
え?アレ?正直どうするか悩んでいてなあ…うーん…んんん…どうすっぺかなあ…
…よし、行ってみるべ!悩んでいてもしょうがねえ!

☆ ☆ ☆

「50年に一度、文化祭の前夜祭にあたる開催宣言の演劇で主役を務めた生徒が鐘を鳴らした時に奇跡が起きる」。
その奇跡を、主役の座を巡り、多くの物語が繰り広げられた。
情熱が。
陰謀が。
欲望が。
意地が。
ぶつかり合い、混ざりあい、競い合った。

在らぬものを追い続ける狐が。
骸となりてなお足掻く少女が。
禁忌をも野心にくべる悪魔が。
片割れを喰らい夜を征く月が。
虚無を抱えつつ微笑む天才が。
曇りなき忠義を掲げる従者が。
比翼を欠いて尚天にある陽が。
ただ一つの奇跡の座を巡り、熾烈な戦いを繰り広げた。

その座が埋まった時、一種の安心が天凌を覆ったのは間違いない。
一連の奇跡の争奪戦で張り詰めた空気が漂っていた天凌でその主役の座が何とかつつがなく決定したという事実は、一種の終息宣言めいて事態を鎮静に導くものであるように思われた。もちろんその裏側には事態を収束するべく奔走した何人かの尽力があり、決してそれは楽なものではなかったが―とにかく主役の決定を以て天凌学園を覆った不穏な空気は薄れていった。

―が。
「50年に一度、文化祭の前夜祭にあたる開催宣言の演劇で主役を務めた生徒が鐘を鳴らした時に奇跡が起きる」。
未だ、奇跡は起こっていない。
奇跡を巡る戦いが収束しても、奇跡が起きるまでは誰も油断してはいけなかったのだ。

だから、たった一人、天凌祭の主役争いに名乗りを上げながら主役にも奇跡にも微塵も興味が無かったその女から、目を離してはいけなかったのだ。

☆ ☆ ☆

その主役の座を手にした彼/彼女の名は。
彼/彼女がいかにして主役の座を射止めたのか。
その座を逃した者たちの無念は。
主役となった彼/彼女は誰をパートナー役に指名したのか。
この場では、あえて書かない。
ここで語られるのは、彼/彼女の物語ではない。
ここで語られる。
その。
大蛮行は。
誰もが注目するその舞台。
今まさに、鐘が鳴らされようとするその瞬間。
主役と、その相棒が。鐘に手を伸ばし。
あらゆる視線がそこに集まった瞬間。

呼吸を潜め、密林の獣をも欺くほどに気配を消して客席の最前にいたその女が、跳んだ。
舞台の上に。鐘の前に。
その手には、鐘を鳴らすにはあまりにも荒々しい、長柄の石鎚が。

舞台を警備していた風紀委員は、その大蛮行を前にあっけにとられ、動けなかった。
主役として立っていた彼/彼女は、その乱入者を止めることができたのかもしれない。
だが、止めなかった。彼/彼女は、その戦いにとっては部外者だったから。

―挑戦状。挑戦状を受けてるんですよ私は。

深林さぐりは。ただ一人。奇跡そのものに喧嘩を売られた女は、鐘をぶっ叩いた。
ばぎゃあん。
奇跡が起きそうにない音色だった。

☆ ☆ ☆

数日前 アマゾンにて

「さぐりさん、奇跡の鐘、何を願うんですか?そういえばまだ聞いていませんでしたね」
物部鎌瀬は深林さぐりに問いかけた。
さぐりはがさがさと草をかき分けながら、大したことではないように答えた。

「なにもないですよ?大体奇跡とか眉唾物でしょう」

「…何と。欲しいものは何もない?」
「そりゃあありますよ。お金とか、美味しいご飯とか、不老不死とか、私は全身欲望たっぷりですよ?
…でも、奇跡の鐘に頼ろうとは思わない」
「それは、なぜ?」
「んー……………」

しばらくさぐりは言いよどんで、ぽつぽつと話し始めた。

「実はですね、私はですね…アマゾンでのあれこれ、ぜーんぜん思い通りにならないんです。
カッコつけてアマゾン有識者です!みたいな顔してるけど、毎回毎回知らないものばかり出てきて、とんとん拍子にことが進んだなんて経験、ほとんどないんです。かなり長いことアマゾンに入り浸ってますけど、全く底が知れない。
だからいつもの探し物も、本当に行き当たりばったりで。予想通りなんてこと、全くないんです。実は失敗して逃げ帰ったのも10回20回とかじゃなくて…
でも、だからこそ…なんていうんでしょうかね、それでこそ得るモノも多くて。
当初の目的を達成した時よりも、そういう全く思いもよらないようなモノが手に入った時に思うんですよ。
アマゾン最高!って…
だから…
鐘を鳴らせば奇跡が起きる、なんて近道は信用ならないし、それで願いを叶えようっていうのは物凄くもったいないし、求めるモノの価値も貶めることになる。
…っていうのは、最初に考えてたことです。
今は…

☆ ☆ ☆

「…………………………!」
「…………………………!」
「…………………………!」
「…………………………!」
「…………………………!」
「…………………………!」
「…………………………!」

うわん、うわん、という鐘の残響が途切れた後、どうすんだよこれ、という異様な沈黙が全てを包んだ。
奇跡は起きなかった。当然だ。「50年に一度、文化祭の前夜祭にあたる開催宣言の演劇で主役を務めた生徒が鐘を鳴らした時に奇跡が起きる」。深林さぐりは「文化祭の前夜祭にあたる開催宣言の演劇で主役を務めた生徒」ではない。舞台に立っているはずがない人物だ。

凍り付いたような沈黙を破ったのは、主役の彼/彼女だった。
それは、単なる困惑から出た言葉であっただろうか。
舞台の上に立つものとして、即興劇の台詞を言ったのであろうか。
あるいは、主役の座を争った相手への問いかけだったのであろうか。

『なぜ、鐘を鳴らしたのです?』

「か、かっ、鐘を…鐘を、なら、鳴らすと…」
問いかけられた彼女は、酷く緊張していた。当然だ。彼女は全く舞台に立つ訓練を積んでいない。あまりに大量の視線にさらされた経験もない。それでも舞台に立って、彼女は何を伝えたかったのだろう。

「鐘を、鳴らすと、奇跡が…」

普段のやたらと自信ありげな彼女からは考えられないような、青白い顔だった。あまりの大蛮行に、彼女自身が最も憔悴していた。それでも彼女はあまりにも強引に、舞台に立った。
大きく息を吸って、その言葉は吐き出された。

「鐘を鳴らさないと奇跡が起きないなんて、絶対におかしいっ!」

その言葉は、さざ波のように伝わって、何かを決定的に変えた。

「みんな…あなたは…あんなに…努力して、演じて、うあ、歌って、あんなに凄くて、強くて、すごく、すごく、すごく、…すごいのに、なんでたかが奇跡一つ、鐘を鳴らさなきゃいけないんですか!?じぶんをっ、か…過小評価しています!なんで奇跡をこれっきりにしちゃうの!?ええっと、わ、わたし知ってますよ!あなたの力も!努力も!それだけあれば、きせき、奇跡、奇跡なんてっ、何度だってっ、いくらだって、起こせますっ!こんな鐘一つで、奇跡が一回こっきりだなんてっ、そんなことは認めないっ!」

その言葉は、誰に向けて吐き出されたものであっただろうか。
全く無茶苦茶な話だった。
きっと他の誰も、かつてそう考えてはいなかっただろう。しかし。

「……………」
主役の彼/彼女は、目を大きく見開いて―それからしばし瞑目し―そして―そこに込められた思いは、何だっただろうか―言った。

『なるほど、貴方の言いたいことはよくわかった。ならばこの鐘を鳴らしたときに奇跡のようなことが起こったとしても、それは一回目の奇跡に過ぎない。何度だって、幾度だって、私達は奇跡を起こしてみせるとも。』
主役に寄り添う彼/彼女は、それに合わせて問いかけた。

『閉ざされた心も、開くでしょうか』
『開くとも!』
『冷たい骸にも、熱が灯るでしょうか』
『灯るとも!』
『日陰で泥を啜る者にも、栄光があるでしょうか』
『あるとも!』
『失われた探し物も、見つかるでしょうか』
『見つかるとも!』
『愛し合う二人は、永遠に共にいられるでしょうか』
『いられるとも!』
『誰かを救うために犠牲の道を選んだ者に、救いの手が届くでしょうか』
『届くとも!』
『空っぽの人形も、心を得る日が来るでしょうか』
『来るとも!』
『比翼を失った鳥も、空を飛べるでしょうか』
『飛べるとも!』

『ありとあらゆる人の元に―奇跡は齎されるのでしょうか』
『ありとあらゆる人が―己の手で奇跡を掴むのだとも!』

堂々と、主役に相応しいさまで、彼/彼女は言い放った。
奇跡の鐘を巡る一連の騒動が、完全に決着した瞬間だった。

鐘は鳴らされた。
奇跡は起きなかった。
―これから、いくらでも起きるのだ。

☆ ☆ ☆

天凌学園の七不思議とは、関係なく。
いつだって、だれだって、奇跡を掴める。

☆ ☆ ☆

「阿保坊」鐘捲成貴さん
はーっはっはっはっは!御機嫌よう報道陣!ん?ああ、そのことか!この際はっきり言っておこう!一度や二度の挫折で屈するほど、ボクは軟ではない!
今回は敗北したが、だからといってボクの財力にも、信念にも、傷一つないとも!ふーははは!待っているがいい、今に更なる金と技術を身に着けて、無敵の金持ちになってくれるとも!行くぞっ!『ファンタスティックスカイ・イリュ〜⤴︎ジョンショー』!!

「神出鬼没の子狐」飯綱千狐さん
結局、探していた故郷はもとより無かったみたいです。
そうですね。正直、すごい凹みました。でも、だからってあきらめてやる気はないです。
はい。無いならば、作ってみせます。私の記憶の中だけの故郷。記憶が偽物だとしても、この郷愁は本物です。
これまで無かったからって、これからも無いだなんて、誰にも言わせない。私のやるべきことは、これから始まるんです。
え?具体的にどうするって?えーっと……………どうすれば…。
うわーっ!?アマゾンやだーっっ!!

「小さな大道具」「鋼鉄妖精」求道匠さん
うん。いい劇でした。素晴らしい舞台でした。
…でも、この呪いは解けないのでしょうね。でも、きっとそれでいいんだと思います。
私は元より主役の器じゃあないけれど、舞台は皆で作り上げるものでしょう?だから、きっとこの呪いは力になる。私が作った大道具で、主役に相応しい演者かどうか、私は問いかけ続ける。
覚悟しろよー主役ども。生半可な主役は、裏方だけど喰っちゃうぞ。

「神様ちゃん」至神かれんさん
いやー、飯がうまい。いいことですよー。うん。三大欲求と生きることのありがたみをめっちゃ噛み締めておりますよー。
いやまあ、これ自体は割と早い時点で解決してはいたんですけどね。それでもなんだかんだで先延ばしにしてたのは、やっぱり一連のごたごたが気になってたってことなんでしょうねえ。
んで、こうして今まさに飯がうまいってことは、やっぱり諸々が全部解決したってことなんでしょうねえ。うん。そうじゃなきゃあ、飯がうまくない。
…うん、そうなんでしょうね。神様ちゃんは、まだマイナスがゼロに戻っただけ。だからこれからどんどんプラスを増やしていきますよー。んー、まずは…ナミー君の様子でも見に行きますか!

「悪魔」酒力どらいぶさん
誘い、来てんだよなあ。「阿保坊」から。どうすっかねえ。これまで独立独歩でやってたから、こういうのは慣れないねえ。
…ん?なんて?……………ははっははは!こりゃあ一本取られたぜ!そうだなあ!「『今』やらずに将来出来る保証があるのか」って、俺が言ったんだったな!据え膳喰わなきゃあ、俺じゃねえ!
よし!行くか!学生続ける奴らにゃ悪いが、一足先に劇団デビューと行くかあ!留年生だった筈が、一足先に卒業だ!まあ色々と問題はあろうが、どうにでもしてやるさ!
ちょうどいい!報じろ新聞部!俺はやるぞ!『今』やるぞ!
俺の舞台は、こっからが本番だ!

「可憐なる何でも屋」八重桜百貨さん
うわーーーっ!ヤメロォブン屋ー!四波平日向が!四波平日向がやったんです!私は操られたんです!報じないでー!経歴に傷がついたら大金持ちへの道がァーっ!…え?それは関係ない?よかったァ~。
ん?あー、うん、儲かりました!満足です!以上!
ん?四波平日向と、月張くんからいくらもらったか?いやー、実のところ二人とも気合入りまくってたからねー、実にお財布のひもも緩く…うへへへへへー!

「不屈の作曲家」羽曳野琴音さん
実のところ、全く諦めてはいないです。
奇跡の鐘はダメだったけれども、だからといって『Rainbow Ignition』の復活を諦める理由にはなりません。
だからこれから。これからです。私はこう見えても『不屈』で売ってるんですよ?既に結構多くの人が協力してくれてるんです。水流園さんとか、綾小路君とか、他にも結構な人が。
だからこれくらいの苦労、どうってことありません。『不死鳥の翼(Phoenix Fluegel)』もありますしね。ちっともつらくありません。
…いや嘘つきました。巨大狸に丸齧りされたのは流石にきついです。

「天才の弟」四波平月張さん
うーむ。こういうのは死に損なったというんだろうか。
『四波平明』は終わりにするつもりだったんだが。思った以上にあっちこっちから手が回って、足抜けできなかった。難儀なもんだ。というか兄貴の野郎、まるっと俺の罪まで被っていきやがった。こういうのは流石に一枚上手だなあ。
まあ嬉しいっちゃ嬉しいよ。こんだけ多くの人が続投を望んでくれたわけだからな。
…おい新聞部。お前も他人事じゃねえだろ。俺の足抜けストップに一枚嚙んでたよな。おい!おまえら深林の派閥じゃなかったのかよ!
ええい!お前らのせいで計画がグチャグチャなんだ!どんな顔でこれから演ればいいか『わかんねえんだよ』!
…あっ!?深林!?これが目的でうわーっ!?

「ミス・パーフェクト」天龍寺あすかさん
はっきりと言います。私は…未熟です!
ええ、確かに私は天才で、当然なんでも一番。でも、それはこのままでいいってことじゃない。今回の一連の出来事で、たくさんの素晴らしい人達と競って、たくさんの伸びしろを見つけることができたのです。
だからこれから鍛えます。足りないものを見つけて、手に入れる。そういうことが、たまらなくやりたい気分なのです!
え?今までも努力家で向上心たっぷりだったって?あー、うん、今まで以上に、ですね!
だから…深林さーん!私はどうすればいいかわからないでーす!

「お付きの人」白露アイさん
実のところ、私達は最初から鐘の奇跡を求めていたわけではなかったのです。
だから今回の結末は、物凄く納得がいくところでしたね。鐘なんて無くったって、誰だって求めるモノをその手に掴むことができる。私達に至っては、最初から望むものなんて持っていたわけです。
ああ、そういえば深林さんはそういう人でした。ええ、ええ。新聞部さんもあの人のことは知っているでしょう?私達を取材するよりも、よっぽど面白いリアクションしてくれると思いますよ?うふふ。

「天凌の陽光」五十鈴陽乃さん
実のところ、まだ色々と整理している途中なんです。今回の結末も、月張君のことも、月乃のことも。
だから、もうしばらくノーコメント、とさせてもらいます。
いや、まあ、羽曳野さんの探検隊の末席にいる時点で何考えてるかは大体お見通しと言えばそうなんですが。
…そうですね、一つ、言わせてもらうなら、欲が出てきた、ってことなんでしょうね。誰でも欲張る権利がある。『五十鈴陽乃』じゃなくたって、求めるものを掴むチャンスがある。
…ああ、そっか。そういうことなんだ。今わかりました。そういう人だったんですね、あの人。

「密林の伝道師」「件の乱入者」「無謀・オブ・ザ・天凌」深林さぐりさん
おわーーーーーっ!
おやめください鎌瀬さん!
あーきこえなーい!なにもきこえなーい!はずかしいいいい!何も言いませーん!答えませーん!取材には応じませーん!ってうわーっロープ罠―っ!
ぐ、ぐぬぬ…鎌瀬さん、随分アマゾンに適応されましたね……
いやー何も考えてないですよっ!そんな高尚なことは何にも考えてないですよっ!私はただのアマゾン女でございますー!そんな主義主張とか、強い意志とか、そういうものは持ってませーん!

―じゃあ私が自分の言葉で書いちゃいますね。

深林さぐり(以下深林):あっ!やめっ!やめてー!

―深林さぐりの根底には、一つの哲学がある。

深林:やめてー!プライバシーの侵害ー!

―彼女の一連の行動と、彼女の能力の性質から、それは明らかである。

深林:あー!あー!

―彼女の能力の本質は、単純に疑問への解を与えるものではない。

深林:わー!わー!

―それは解を与えるのではなく、掴み取るチャンスを与えるものである。密林の中で求める者を見つけ、それを手に入れるのに必要なのは、それを求める本人の力である。

っ~~~~~!

―彼女自身は、解を求める者をアマゾンに叩き込んだ後は特に何もしない。それで助かるものはおのずから助かるのであり、彼女もそうであると信じている。

深林:……………!……………!(耳まで赤くなりながら顔を覆う)

―つまるところ、彼女の根底にあるのは人間賛歌である。誰もが自分自身の力で望むものを掴むことでできるという、他者の力に対する信頼だ。

深林:く…くっころ…!

―思えば先日明らかになったアマゾンに送られた他者の体力を奪うという仕様も、その人自身の力がチャンスの代価になると考えれば、無意識化まで実に一貫した仕様である。

深林:あばばばばばばば…

―と、いうわけで新聞部一同で立てた仮説なんですけど。「アマゾンに行けばわかる!」って、要するに「あなたならできる!」と同義ですよね?

深林:……………う、ううう…

―とりあえず赤面写真貰いますねー。パシャッとな。その顔がもう肯定みたいなものということで。

深林:チガウヨー。ワタシソンナタイソウナコトカンガエテナイヨー。タダノアマゾンバカダヨー。

―まあアマゾン馬鹿なのは事実なんでしょうけど、結局人を高く評価しがちなんですよ貴方は。だから主役争いでも自分でどうこうするよりも先に我々を引き込みに行ったんでしょう?

深林:…だってえー。だってえー。

―だって?

深林:奇跡の鐘とか絶対に要らないような人たちが揃いも揃って目を血走らせて、これで負けたらおしまいだー、みたいにやってるんだもん。止めたくもなりますよ。
というか『奇跡が起こる』としか言われてないじゃないですか!なんでみんなそんなに気合入れるんです!?眉唾物の噂にしては例年に比べて明らかに様子がおかしかったですよね?絶対なんか奇跡の鐘の噂自体になんか精神作用がありますって。50年前の奇跡に関しても具体的な情報が流れてこないし。本当に全くの偽物とは思いませんけど、誇大広告の一種だったんじゃありませんか?
万が一起こった奇跡がショボかったりしたら思い詰めてる勢が何人か死にますよ。五十鈴さんとか。

―だからあからさまに奇跡に興味がない立場で主役争いに臨んで、最後にはああしたわけですか。にしては大分気合が入ってましたけど。

深林:他人が気合入れてるところで舐めたことするほど性根腐ってません。あとみんなアマゾン行けっていうのは最初っから最後まで本気です。

―そこは建前だと言って欲しかった。

深林:私は今回の一連のことで本音じゃない台詞を吐いたことは一度もありませんよ!
というわけで私が言うことは舞台上で言ったことと今回のこれとあとみんなアマゾン行けということで全部です!はい!おわり!

―最後に、一つだけ。

深林:なんです?

―主役、やりたかったですか?

深林:………………………………………

―主役やりたかったですか?

深林:………………………………………(露骨に目を逸らす)

―主役やりたかったですか?

深林:………………………………………はい。正直負けて悔しかったです…

―なんだかんだ言って、舞台立ちたかったんですね。

深林:あ、いや、それは、その…

―そのー?

深林:うにゃー!

―ちょっ、やめてっ、痛い、痛いから!ってあっ!羆!アマゾンヒグマが!

深林:えっ!?ちょっ、ロープ!ロープ解いて!

―あーっそうだったー!

深林:うわあああああああ!
―うわーっ!?

☆ ☆ ☆

天凌学園新聞78号
『件の乱入者』深林さぐり&『パパラッチ・オブ・天凌』物部鎌瀬、羆に襲われ重傷
2人を良く知る新聞部長は「あいつらタフだしヘーキヘーキ」とコメント
余りに間抜けな事故に各方面より呆れの声

特集『実録:天凌アマゾン探検隊最前線報告』3面にて
………………………………………

☆ ☆ ☆

天凌祭開催式・新定例演目
「満天の空と約束の鐘と神秘の密林」
あらすじ

これは幾星霜も昔の物語――。

神々は音の祝福と共に森羅万象を織りなした。
世界には音楽が満ち、そして神々が
天へ帰ると共に静寂が訪れた。

神々の置き土産である祝福を忘れぬ者のみが
音を愛し、音楽を奏でたが
次代を経るにつれ忘れ去られていった。

そうして訪れた音の無い時代に
高らかに詩を歌う詩人が現れた。

詩人の歌に人々は耳を傾け心震わせた。
ただひとりを除いては。

その者は様々な理由から
心を失い、愛を失い、恋を失い、
ゆえに音を聞くことができなかった。

詩人は心を閉ざした者の境遇を悲しみ、
毎日新しい歌を届けた。

心を閉ざした者は戸惑いながらも
歌を受け取り、次第に二人は親しくなった。

そんな折、二人はある不思議な伝説を知る。
離れた丘の上にある、古びた鐘のことだ。
心から信じあう者同士が共に
鐘を撞くと奇跡が起こるというのだ。

そうして鐘を目指した
詩人が見た物は、既に朽ち果てた鐘だった。
しかし詩人は挫折を超えて奮い立ち、朽ちた鐘に誓う。
奇跡に手が届かぬであれば
届くまで腕を伸ばし
足場を積み続け
勇ましく歌い通して
己の力で足掻くまで、と。

そうして彼が見つけた奇跡への手掛かりは
余りにも危険な密林の中にあった。

しかし彼の決心は揺らがない。
心を閉ざした者と、そして自分の意地のためにその森を目指すのだ、と――。

 

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