最早世界は台本から切り離された。
ここから先は彼らの物語。
◆ ◆ ◆
鞄にありったけのお菓子を詰め込んで
僕達は夜に旅立った
あのときの僕らは確かに月を目指していた
高く遠く夜を切り裂く蒼褪めた月光を
僕らは掴めると思っていた
初めての夜更かしは孤独の味がした
――――What Would Happen If There Was No Moon?
◆ ◆ ◆
あの日あの時あの瞬間のことを、私は今も夢に見る。
天領を讃えるために生きた彼らが悪かったのだとは、私には思えない。
だが、それでも。
彼らを灰色に焼き尽くしてでも、私たちは極彩色に燃え上がらずにはいられなかったのだ。
ああ、
あの時の体験のせいで
ああ、
私の脳は灼かれ
ああ、
人生がイカれてしまった
ああ、
碧なす髪を振りかざす蒼褪めた馬
ああ、
そいつが、私の命から離れない。
あの日あの時あの瞬間のことを、私は今も夢に見る。
この学園に燦然とはためく一旒の学園旗。
その極彩色のきらめきが、天凌に召し上げられた彼らへの幾許かの慰撫になることを切に願う。
ああ、
今日も眩しくはためくレオタードが優しく学園を見守っている。
あの日あの時あの瞬間のことを、私は今も夢に見る。
酒でも呑んで忘れようにも忘れられないような代物ではあるのだけれど。
確かにあれは、われわれの青春であったのだ。
――――初代天尊学園学園長 飯綱千狐の日記より
Dangerous Gymnasium SS Ring the Bell
Finalround Final match
『さけと、なみだと、おとこと、おんなと。』
――――Liquor, Tears, Men and Women
◇ ◇ ◇
「確保ォ！！」
治安の悪化した学園で、魑魅の怨嗟が谺する。
魍魎を縫い止め挫くは四波羅夷風紀委員会。
四波羅夷とは、比丘と呼ばれる男性出家者にとって最上級の罪に該当する淫・盗・殺・妄の四戒である。
罪を抱えて奇跡に背を向けた四波平の月が作り上げた自警団月組。
月張が抜けた後に風紀委員に組み込まれたそれは現時点で学園で最強の武装組織である。
それが今。迅速に天陵学園の治安を保持すべく活動しているのだ。
「おのれ、おのれおのれおのれ！！分かっているのかただの小童たちが！！」
「五拾を五十に繰り返し五重連ねた天凌の霊脈を！！われらの悲願を！！」
「わかっているのか！？もはやただの演劇ではすまなくなっていることにィィィィ・・・・」
そして今。最強の妖狐である那須ほがらかは、空白の標本箱の中身となった。
感情の鉱石化による封印は、妄念の類に特効中の特効であるがゆえに。
風紀委員の長となり、現時点でこの学園で最強の武装組織を結成した姫君がそこにいる。
流星の姫君は困っている人を見つけ出し分かることができる。だが。
サーチライトは、道標を照らさない。
「・・・困っているね、風紀委員長。事態は終わりに近づいているけれども」
「やはり彼が心配かい？」
「もし君がその想いを持て余すなら、その想いごと取り出してしまおうか？」
地学室の自動人形は人の心を解さない。だが。
目の前の姫君に寄り添うことはできるのだ。
少女に寄り添い悪夢を祓うは、人形に課せられた義務であるがゆえに。
「もう知らない・・・何度目なの、この話」
【わかっているのか！？もはやただの演劇ではすまなくなっていることにィィィィ・・・・】
「――――わからないわよ、そんなこと」
最強の矛を、無敵の盾も持っていたとしても。
具体的な解決策は、いまだ闇の中だ。
◇ ◇ ◇
天凌の悪童が、蒼空を舞う。
真紅のホンダ CB400 SUPER BOL D’OR。愛車の一つ一つに張り巡らせた異能はその重さを変化させる。
使い慣れたその感覚に誤りはなく。愛車の重心を自由自在に操り駆使し、文字通り空を駆ける。
彼の異能にはまだ、名前がない。そして。
「俺にはこれ位しかできねえ。できねえけどよ」
「今やらなきゃいけねえことはこれなんだ。それだけは、わかってるぜ」
名前のない彼だけが、唯一この学園で蒼空を駆けることが出来る異能だった。
彼らを現場に迅速に運搬し続ける。それが出来る異能だった。
「頼むぜ・・・ダチ公ども！！」
彼は駆ける。彼らのために。
◇ ◇ ◇
【演劇ってなんだと思う？】
これは幾星霜も昔の物語――。
【演劇ってさ。誰かと出会えないと出来ないんだよ】
神々は音の祝福と共に森羅万象を織りなした。
世界には音楽が満ち、そして神々が
天へ帰ると共に静寂が訪れた。
【でもさ、誰かと別れたことも。誰かと会えなくなったことも】
神々の置き土産である祝福を忘れぬ者のみが
音を愛し、音楽を奏でたが
次代を経るにつれ忘れ去られていった。
【演劇にできて】
そうして訪れた音の無い時代に
高らかに詩を歌う詩人が現れた。
【そう、俺達はたとえ死んでも一人にはなれない】
詩人の歌に人々は耳を傾け心震わせた。
ただひとりを除いては。
【この幸福に気が付くことを演劇と言うのだと】
その者は様々な理由から
心を失い、愛を失い、恋を失い、
ゆえに音を聞くことができなかった。
【広い門の下には、この男のほかに誰もいない】
詩人は心を閉ざした者の境遇を悲しみ、
毎日新しい歌を届けた。
【どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない】
心を閉ざした者は戸惑いながらも
歌を受け取り、次第に二人は親しくなった。
【選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、餓死をするばかりである】
そんな折、二人はある不思議な伝説を知る。
離れた丘の上にある、古びた鐘のことだ。
心から信じあう者同士が共に
鐘を撞くと奇跡が起こるというのだ。
【外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである】
とある晩、詩人は決心をする。
心を閉ざした者のためにその鐘を目指すのだ、と――。
詩人の行方は、誰も知らない。
◇ ◇ ◇
彼は幸せになれたのだろうか。
【僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進
んで行こう】
天領の下、寺子屋の傍、枝垂桜の傍で佇む。
【ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ】
荊の木を好んだ、少年は。
◇ ◇ ◇
「わからないの・・・！？もうただの演劇ではすまなくなっているんですよ！？」
神出鬼没の子狐と呼ばれた少女から。、
十人十色の沼狐と呼ばれる異能が溢れ出す。
「私はただ、故郷に帰りたいだけ。そのためなら何だって……！」
無限と思える霊力を経て虚無の願いに想いを通す。
その想いは昇華されることが決してないがゆえに、無限の霊力はどこまでも空転し続ける。
狐十人依れば姦しく、
永劫に久遠に恒久に長久に無窮に悠久に永久に永遠に空回り続ける泥のような霊力は。
まるで狐の少女を十二単衣のごとく覆い尽くしている。
【うすあかく いっさう 陰惨な 雲から みぞれは びちょびちょ ふってくる】
なにもなく
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
からっぽで
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
まっしろい
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
くうはくの
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
すみっこに
【蒼鉛いろの 暗い雲から みぞれは びちょびちょ 沈んでくる】
ひざをかかえてうずくまつている、
神出鬼没の子狐と呼ばれた少女から。、
十人十色の沼狐と呼ばれる異能が溢れ出す。
【わからないの・・・！？もうただの演劇ではすまなくなっているんですよ！？】
「わかっちゃいないわね」
ミス・パーフェクトと呼ばれた少女。
極彩色の太陽の下で。
銀河や 太陽、気圏 などと よばれたせかいから。
灰色の世界を眺めていた。
俯瞰症とよばれた病気の少女。
なにもなく
【ワタシは天才！当然何でも一番！一番からの景色は気持ちがいいわね！】
からっぽで
【嘘である】
まっしろい
【一番の景色に特に興味はない】
くうはくの
【天龍寺あすかの心は乾いている】
てっぺんに
【はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから】
「私はわかっているわよ」
【おまへは わたくしに たのんだのだ】
「降りて見なきゃ、分からないのよ」
【銀河や 太陽、気圏 などと よばれたせかいの】
ひとりぼつちでたつていた。
少女は、今。
【そらから おちた 雪の さいごの ひとわんを……】
「泣いてる子を見捨ててオーディションを受けにいくなんて―――」
「ミス・パーフェクトの名前がすたるわ」
ともだちになれる、だれかの為に。
◇ ◇ ◇
極彩色の呪いを吐く。
どの日どの時どの瞬間であろうとも、彼女は常に呪詛を吐く。
荊木 きっどは、中山ギムナとしてここにいる。
【金髪ロングのズラ、巨乳巨尻。制服の下にレオタードを着こんで女性らしい見た目をしている。
チンチンは皮下脂肪の中に押し込まれ、
キンタマの皮をチンチンを押し込んだ肉の割れ目から出して見事な偽モリマンを作り出している。
レオタード姿で開脚すると、股間にスジが浮かび上がりすごくエッチ。】
「いやーん、皆のエッチィ！・・・ってところッスかね？」
余りにもシンプルな横紙破り。異形を見せつけることにより強引に学園中の想いを掻き集める。
想いの集積を管理していた最強の妖狐も今はいない。
「わかっているッスか？もはやただの演劇ではすまなくなっているんスよ」
だとしても。
見られずにはいられない異形で他人の想いを掻き集めているだけなら。
見られずにはいられない演劇で奪い返すことは出来るはずだ。
ニンジャリアリティーショックと呼ばれる理論がある。
唐突に現実にニンジャが現れるほどの衝撃は人間の精神を破壊して余りあるという分析結果だ。
【金髪ロングのズラ、巨乳巨尻。制服の下にレオタードを着こんで女性らしい見た目をしている。
チンチンは皮下脂肪の中に押し込まれ、
キンタマの皮をチンチンを押し込んだ肉の割れ目から出して見事な偽モリマンを作り出している。
レオタード姿で開脚すると、股間にスジが浮かび上がりすごくエッチ。】な生命体の衝撃はニンジャの何倍に至るのか。
そんな存在の衝撃をただの演劇で上回ることができるのか？
――できる。
できるのだ。
【けふのうちに とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ】
「わかりたくもないわ・・・！！」
「そこをどきなさい！あなたの奇跡は！私の邪魔よ！！」
【みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ】
今足を止めてしまえば、もう二度と『アレ』に出逢えない。
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
そういう確信だけが、ここにある。
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
故にこれは呪いなのだ。
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
足を止めれば。大人になってしまえば。きっともう『アレ』には出逢えない。
【あめゆじゅ とてちて けんじゃ】
そう。
【わたしたちが いっしょに そだってきた あひだ】
この奇跡を逃してしまえば／大人になってしまえば
陽乃はもう、二度と月乃には出会えない。
異能はここで燃え尽きる。
大丈夫だ、もう陽乃がいなくても。
月乃には、支えてくれる人がいる。
月の世界に、太陽は邪魔なのだ。
【みなれた ちやわんの この 藍のもやうにも】
「たとえどんな困難が立ちはだかろうとも、“五十鈴陽乃”に後退の二文字はないんだ！」
【もう けふ おまへは わかれてしまふ】
極彩色の太陽が零れ落ちて、後に残されるのは灰色の世界。
天凌の陽光が、落ちる。
日が、落ちて。明かりが、消えて。見えなくなった太陽と月の幻視鏡で。
【ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ】
極彩色の涙が零れ落ちる。
後に残されるのは灰色の世界。
【わたくしも まっすぐに すすんでいくから】
残されるモノは。
◇ ◇ ◇
四波羅夷とは、比丘と呼ばれる男性出家者にとって最上級の罪に該当する淫・盗・殺・妄の四戒である。
四波羅夷の四戒・・・その罪の犯した者は全ての資格ととを剥奪される。
そして仏教教団から追放されて仏教徒では無くなり、二年間、一切の宗教活動を禁止しなければならない。
また、後に罪を悔い改めたとしても、仏教徒に戻ることは許されるが再び出家者である僧侶となることはできない。
四波羅夷とは、永久追放に値する最重罪である。
罪を抱えて。奇跡に背を向け。四波平の月は。
◇ ◇ ◇
結局のところ、天凌学園とは何だったのだろうか？
最強の妖狐が倒されたことで、次から次へとナニカがやってくる。
うっとおしいとゲリラテンペストが。
わらいながらも殿下が。
月組が。風紀委員が。教員が。幼年部が。グリズリーが。アフリカデカシロマイマイが。ペケロポルチョアルアが。
学園の皆が協力して抵抗する。
それらに抵抗して対抗する。学園の中からも何かが漏れてくるのでついでにへち倒す。
「わ、わかっているのか！？貴様らがなにをしているのか！？」
「演劇！？何が演劇だ！ことはそんな事態ではすまなくなっているんだぞ！？」
来るやつ来るやつみんなそういう。そういうけどじゃあなんだと言うの？
言ったところで答えてくれない。問答無用で教えてくれない。ゼロは何も教えてくれない。
じゃあ仕方がないとふっ飛ばした後からそんなこと言われても遅いのだ。
結局のところ、天凌学園とは何だったのだろうか？
全部終わった後に、自分たちで調べるしかないのだろう。
ふははーはー、それまでに学園が残っていればの話だがな！
なにもなく
【クラムボンはわらっていたよ】
からっぽで
【クラムボンはかぷかぷわらったよ】
まっしろい
【それならなぜクラムボンはわらったの】
くうはくの
【知らない】
がようしが
「いやー！！」
「わからないですね！」
密林の伝道師は、笑う。笑う。笑いが止まらない。
目に入るものは全てが未知で。どこに行こうと描き放題だ
纏めれば本にでも出来るんじゃないか。いいなそれ。どんなタイトルをつけようか。
『天凌スペシャルさぐりちゃん探検隊シリーズ』とかどうだろうか？
「だから私はわかろうとするんです！」
【外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである】
天凌学園の行方は、誰も知らない。
【とき☆めき☆モブラ――――ッシュ！】
多分、知らない。
【天翔ける鳳“凶天疼血”――――！！】
知らないんじゃないかな。
【沸き立つ衝動はどこからくるのかでも抑えられない内なる風歌いたい！踊りたい！演じたい！私の中で暴れるの！レンはこれでも男子だも
ーん天凌学園高等部1年 大嵐 閃里！急転直下の大嵐！あなたのハートの最大瞬間風速！見事、更新して見せる！うーーん！運命的！】
ま、そゆことにしておけ。
その謎を解明するため、我々探検隊はアマゾンの奥地へと向かったのだから―――
後に、天凌学園の跡地は天尊ヶ樹海と呼ばれることになったとか、ならなかったとか。
とっぴんぱらりのぷう
◇ ◇ ◇
「そこをどけ酒力・・・！！」
「わかっているのか！？ことはもう、ただの演劇の話じゃない！」
俺の兄のせいで。俺の兄のために。
「お前だってそうだろう？」
「大人になれ酒力」
「少なくともお前は、こんなことがしたい奴ではなかったはずだ！！」
お前たちがこうなる必要はないはずだ。
聖人はいつだって。
他人のことを考えている。
アイツのことが頭から離れない。
アイツの言葉が耳から剥がれない。
アイツの悉くが口から吐き出される。
故にこれは呪いなのだ。唾して棄てるべきまがまがしい極彩色。
いつだって月は。
太陽のことを想っている。
ああ。
【――――月がまた、言い訳をしてやがる】
俺は、アイツを。
ああ。
「演劇だよ」
俺は何時だって。
「演劇だぜ」
俺は何処までも。
「演劇なんだよ、俺がやりたいことは」
俺のことだけを考えている。
「少なくとも俺は、こんなことがしたいからここにいるんだ」
必要だからなんて理由で演劇をするつもりはない。
「お前だってそうだろう？」
「子どもなんだよ四波平」
「体が大人になったとしても、真偽はいつだって心の中だ」
悪魔の誘惑はいつだって。
「オマエハダレダ？天才の弟か？あいつの恋人か？」
「惚れた女の檜舞台だ、信じて待てよ。男がすたるぜ？」
聖人のことを狙っている。
「見ろよ、特等席だぜ。」
ああ。
こいつは、俺の人生における【毒】そのものだ。
極彩色の太陽が零れ落ちて、後に残された灰色の世界。
日が、落ちて。明かりが、消えて。
「どうだい、一杯？」
でも月の光の下でなら
僕らは
きっと
俺は
きっと
◇ ◇ ◇
「わかっているんですか・・・？もはやただの演劇ではすまなくなっていることに」
ぜえぜえと、いきもたえだえな少女がいる。
「なぜ、こんな。あなたたちは、こんな」
ひとつ、またひとつとなにかがこぼれおちているかのように、いきもたえだえにあえいでいる。
【この雪は どこを えらばうにも あんまり どこも まっしろなのだ】
【あんな おそろしい みだれた そらから この うつくしい 雪が きたのだ】
「わかる必要はありません」
お付きの人はそれを見送るやうに見守るやうに、膝を枕に少女をやさしくあやしている。
少女の頭を、ははおやのやうに。左手でさふりとなでる。
【それを、お嬢様が望まれるのであれば】
私の主人は、泣いている子を黙って見過ごすご主人様ではないのだから。
「私はもう、答えを持っていますから」
目を閉じれば、大事なものはいつだって。
記憶の地平線からあふれてくる。
【演劇ってなんだと思う？】
「あなたがどんななにかであろうとも」
【演劇ってさ。誰かと出会えないと出来ないんだよ】
産まれの秘密がなんだというのだろうか
【でもさ、誰かと別れたことも。誰かと会えなくなったことも】
「あなたをどんななにかとして受け入れる人達はここにいますよ」
【演劇にできて】
私たちは、繋がってさえいればそれでいい。
そう、俺達はたとえ死んでも一人にはなれない
この幸福に気が付くことを演劇と言うのだと
【うまれで くるたて こんどは こたに わりやの ごとばかりで くるしまなあよに うまれてくる】
こぼれたものをたいせつに、たいせつに。
かきあつめるかのようにあたまをなでる。
【人は神に至った。なら、その先は？】
【神を超えた先の景色、神様ちゃんが見せてあげましょーう！】
こぼれおちてはかなくきえるのだろうか。
あつめられてまだながらえるのだろうか。
【おまへが たべる この ふたわんの ゆきに】
いつうまれたかわからぬわたしにも
【わたくしは いま こころから いのる】
なにもいいことのなかつたわたしにも
こうやってえんげきをながめながら
【どうか これが兜率の 天の食に 変わって】
ここでめをとじるのか、あけるのか
【やがては おまへとみんなとに 聖い資糧を もたらすことを】
それをえらぶことくらいはできるのだ。
【わたくしの すべての さいはひを かけて ねがふ】
ああ、神様はちゃんとわかっているんだなあと。
神様ちゃんは思うのです。
――――初代天尊学園養護教諭 至神かれんの日記より
◇ ◇ ◇
ああ、そうだ。だから目的は元から一つだったんだ。
せっかくの檜舞台、せっかくの演劇なのに。
演劇をするために演劇をする奴が、演劇を見たい奴がいなかったんだ。
かげろうがただよう。蜃気楼になる前に。櫻嵐の先導者がそれを捕まえる。
「転生した人とか初めてですけどね。あなたの人生は変わりますよ」
「転生する前にはいなかったんじゃないですか、こんなの？」
「集団の中で孤独を感じたことがあるん？」
「もっともっと陰キャに優しくしてほしいわ、見てみいやあの有り様」
そう、俺達はたとえ死んでも一人にはなれない
この幸福に気が付くことを演劇と言うのだと
◇ ◇ ◇
「――――――――――――――――――」
くす、くすくすくすと。しょうじょがわらっている。
闇を照らす光がそこにあった。
どれほど絡まり縺れ、引き千切るしか終わりがないような有様に見えようとも。
【おまえのともだちがどこかへ行ったのだろう。あのひとはね、ほんとうにこんや遠くへ行ったのだ。おまえはもうカムパネルラをさがして
もむだだ】
それでもただ、しゃちちゃんは、このきれいできたねえはなびをみたかったのだ。
【ああ、どうしてなんですか。ぼくはカムパネルラといっしょにまっすぐに行こうと言ったんです】
私のともだちと。奇跡などには頼らない。ただの演劇を。
【ああ、そうだ。みんながそう考える。けれどもいっしょに行けない。そしてみんながカムパネルラだ】
たとえそのかたわらに、わたしのすがたがなかったとしても。
【外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。】
光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった
――ヨハネによる福音書１章５節より
くす、くすくすくすと。しょうじょがわらっている。
行方は、誰も知らない。
◇ ◇ ◇
「さぁて、と。」
「カーテンコールだ四波平、準備はいいか？」
「なにをとぼけた顔してんだよ、お前の彼女の最高の檜舞台は終わったぜ？」
「次は俺達だ」
「横合いから思いっきりぶん殴って皆の瞳をかっさらう」
「手前は先に彼女の瞳もかっさらわなきゃいけねえけどな」
「ケッヒッヒ、卑怯とは言わねえな？言われたって止めねえけどな、俺は器が狭いからよ」
「他の奴らも次々来るぜ―――先に手前とケリつけてやるよ」
◇ ◇ ◇
ああ、そうだ。だから目的は元から一つだったんだ。
せっかくの檜舞台、せっかくの演劇なのに。
演劇をするために演劇をする奴が、演劇を見たい奴がいなかったんだ。
俺達はたとえ死んでも一人にはなれない
この幸福に気が付くことを演劇と言うのだと
だが俺達は。
主演のことを考えてばかりで
脇役の事情とか気にも留めてねえアホばかりだ。
【ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた】
友人と言うには何かが違う。
【広い門の下には、この男のほかに誰もいない】
家族と言うには種族が違う。
【どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない】
仲間と言うには心が違う。
【選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、餓死をするばかりである】
相棒と言うには立場が違う。
【外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである】
ただそれでも俺達は、一緒にいて、こうやって馬鹿をやっている。
【そういうものに私はなりたい】
さあカーテンコールだうるせえ知るかひとりの演者ひとりの観客そのゴールのために俺はすべての頂点に立つきっとなんかいい感じに演技出
来ると思うんでマジ主役もいけると思うスマジで俺にも俺なりに祈りたい幸福というものがあるだが果たしてそれを己に向けても良いものだ
ろうか僕の”音”に…耳を傾けてくれるかい？私は音楽で、約束の鐘を鳴らすこれぞ一獲千金、二段構えの策！貧乏人ごときが不幸にしてる
んじゃない！僕の『ファンタスティックスカイ・イリュージョンショー』は汎用性の高い能力……！人民あれば自らを由としましょうが、私
は名に恥じぬよう望まれております。五七五でケツ打ってイクイクチンポソイヤですから目いっぱい、手を伸ばす。空の星に。誰かの背中に
。衣裳部屋のハンガーに。小さな体では、そうしなければ届かないものばかりだああもう誰も彼も勝手だ勝手に好き放題アピールしやがって
―――ぶち破るぞ手前ら？
「おらいくぞセンパァイ！！」
「うるっせえんスよ先輩！！」
下人の行方は、誰も知らない。
◆ ◆ ◆
みんな、みんな
こうやって、はじまったんだ
さあ、たしかめにいこう
とうめいよりもきれいなあのかがやきを
たいようがなくたって、あるけるさ
◆ ◆ ◆
一人分の陽だまりに二人じゃきっと入れない
でも月の光の下でなら
僕らは
きっと
――――it is reckless drive the pale rider！