↓ ※ 第三回戦終了時までの姿 ※ ↓
「月がまた、言い訳をしてやがる」
■通り名
「天才の弟(リトルブラザー)」
■名前
四波平 月張(よなひら-つきはる)
■性別
男
■年齢
16
■学年 / 所属
天凌学園・演劇専修科・高校一年
■外見
体格のよいスポーツマン体形。
顔のパーツは整っているが、全体として目立たない印象。
■性格
周囲の空気を読むムードメーカー。
お調子者を演じるが、根は繊細で悩みが多い。
■能力
『真偽体』
格闘演技で、現実に影響を及ぼす能力。
言い換えると「迫真のアクションシーンで相手に疑似的なダメージを与える力」。
寸止めであっても、受けた側は痛みと衝撃を感じて吹き飛び、斬撃は相手の意識を断ち切る。外傷は発生せず、数分もすれば受けた側はノーダメージで復帰する。
■プロフィール
天凌学園・演劇専修科高等部在籍の男子高生。
国民的アクション俳優の祖父(故人)と、天才アクション子役として数年前まで一世を風靡した兄(芸能活動休止中)を持つ。
恵まれた体格とアクションセンスに対し、発声や演技といった役者としての基本技能は並みで、役者としての『華』に欠けると評価されがち。
演技に関することはおおむねそつなくこなすが、主役としてスポットが当たると、途端に動きに精彩を欠く。
■関連人物
四波平 明(よなひら-あきら)
4年前まで、アクション邦画業界で名を馳せた人気アクション子役。
細やかな演技と、子どもとは思えない鋭くキレのあるアクションで、多くの代表作を残した。
祖父は国際的なアクション俳優、四波平 徳郎(よなひら-とくろう)。
4年前、芸能活動のマネジメントをしていた祖父の死とともに、芸能活動を休止。
以後、彼の動向が報道されることはない。
『天才アクション子役、四波平 明』(シネマ総論2017年7号特集より)
【『技斗』の血、四波平の継承者】
アクション映画の中核をなす、演技格闘。
時代劇であれば殺陣、と呼ばれるこの演技術を、一部の邦画業界では『技斗(ぎとう)』と呼ぶ。
日活撮影所の殺陣師、高瀬将敏氏の造語であるが、昭和を代表するアクションスター「世界のトクロウ」こと、四波平 徳郎がインタビューで言及したことでこの単語を知った読者は多いだろう。
四波平流空手道場の子として生まれ、様々な武術・武道を修めた徳郎は、その経験を元に独自に発展させた『技斗』と、俳優としての華でもって昭和映画界を席巻し、国境を越えた活躍を見せた。
彼の孫、四波平 明は、一代限りと思われた徳郎の『華』と、卓越した『技斗』を兼ね備えた、『天才の再来』だ。
【祖父と孫でなく、師弟として】
筆者が初めて四波平 明を取材したのは、彼が9歳の頃、主演3作目『陰陽童子伝』の撮影現場でのことだった。
明演じる安倍吉平が、蘆屋衆に式を封じられ、徒手空拳で包囲を掻い潜る大立ち回り。
ダッチアングルからのティルダウンにはじまるトリッキーなカメラワークに注目されがちだが、それは、明の地を這うような疾走と、流れるような多対一の応酬を活かすもので、特筆すべきは高度な『技斗』である。
2013年、ヒューマントラストシネマ渋谷で限定公開された、アクション俳優、坂口拓の引退記念映像『狂武蔵』の77分長回しアクションが話題となった(プロデューサーの太田氏によれば、当該映像を単体の映画として完成させるためのクラウドファンディングを計画中という。筆者としても成功を願う限りである)が、一般に格闘アクションで、10秒もカットなしにカメラを回せば、それは長回しだ。
だが、このシーンは子役を中心としたワンカット、15秒。
さらに驚くべきことに、このシーンの『受け手』のひとりは、アクシデントで、これまでリハーサルを繰り返してきたのとは別のピンチヒッターだった。
『技斗』は、個人の技量で成立するものではない。
最も重要なのは『攻め手』と『受け手』の動きの噛み合い。
現実として「起きていない」暴力を、「存在するかのように」演じるには、両者の整合こそ肝だ。
つまり、どれほど明の動きが完璧であろうとも、受け役の動きがそれに追いつかなければ、『技斗』は、破綻する。
――「15秒の長回し」take4。
13秒目に、それは起きた。
明の足払いに対し、代理役である受け手が、明らかに反応のタイミングを誤った。
これでは、『技斗』の流れは断絶する――誰もがそう思ったはずだ。
しかし、それは起きた。
演技ではない、「本当の打撃」。
そうとしか思えなかった。
受け役は、演技ではなく、寸分違わず、「不意の一撃を受けて」吹き飛んだ。
リアルを追及するため、実際に打撃を当てる『技斗』は存在する。
だが、今回はその予定はない。予定外の実打は、事故だ。
現場に緊張が走る。
しかし、結果として、受け手に、傷はひとつもなかった。
受け手は、「そう演じなければならない」という意図なしに、まるで、明少年の演技に気圧されるようにして、無意識に吹き飛ばされた。そうとしか言えない事態だった。
であれば、四波平 明は、『技斗』の大前提を覆したことになる。
受け手の意図に関わらず、「まるで現実である」かのような迫真の『技斗』で、実際に打撃を受けたかのような反応を強制する。
即ち、『技斗』を超えた、『欺闘』。
観客のみならず、共演者をも欺く闘演。
完璧な演技であると筆者は感じた。
しかしそのtakeは、監修の四波平 徳郎によって、お蔵入りとなった。
その直後の、明少年と徳郎とのやりとりを、筆者は印象深く記憶している。
乾いた音の、平手打ちであった。
意図はわからない。一人で完成するなかれということか。
その直後の明少年は、屈託のない、華やかな愛嬌で報道陣に応答していた。
スタジオで訥々と監督の指示に応じる姿とは別人のようなスター性。
武人めいた克己のアクション。アイドルめいたカリスマ的な魅力。
天は二物を与える。
「世界のトクロウ」引退後、圧倒的なスターを欠いた日本アクション業界。
だか、「世界のトクロウ」は、祖父と孫でなく、師弟として、天才の遺伝子を次世代に残そうとしている。
今はまだ「天才の孫」である少年が、どのように才を開花させるのか、楽しみでならない。