「変態王子」ゴシチゴデケツブッテ・イクイク・チンポソイヤ プロローグ

主とともに日本へ留学できたのは、年回りの同じ私一人です。どうしても側仕えと護衛を兼任する形になるでしょう。
日本の治安が良いとは言っても、護衛もなく、かなりの期間、姫様が一人というのは、たいへん心もとないものです。私には主の生活を整えるだけでなく、王族に仕えるものとしての覚悟として武に覚えもあり、身を挺し盾となる覚悟もございますが、いくぶん、一人の目には届かないこともあるでしょうし、空恐ろしく感じられます。

天凌学園への留学が決まったのは、王の側近で、姫様が父のように慕う教育係の、何気ない切り出された昔話がはじまりでした。彼女は自身の運命を大きく変えた出来事として、多感な時期に外の世界を知ることが大事だという経験を語りました。彼女は50年前、天凌学園からの留学生として、ゴシチゴデケツブッテにやってきたそうです。そこから波瀾万丈の物語があり、今では王にさえ信を置かれる側近となっておりますが、留学したことが全てだと、くだらないささいな理由からはじまったのだと語りました。

この話が姫様の胸を打ったのか、あるいは王の周囲で決まっていたのかは存じませんが、王族が居を移すとしては思えないほどの速さで日本留学が決まりました。
陰謀渦巻く王家から離れたことは、姫様にとって幸いなのか、遠ざけられ不幸なのか、私にはわかりません。ただ、より良いものとなるよう努めるだけです。

……そのような決意は、私には信じられない形で霧散することになりました。

天凌学園へ足を踏み入れた途端、姫様の上背が一瞬で大きくなりました。顔貌もお兄様方によく似たものに変わっています。
衣服さえ男のものへと様変わりし、私は姫様を見失ったと思い、側仕え失格の体たらくを見せてしまいました。
慌てふためく私に、落ち着くよう、姫様は言いました。

「どうやら私の名前は、男性のもののようです。なにやら、とんでもないことになりそうですが、別に彼らが害をなそうとしていふのではありません。捨て置いてよいでしょう。これも得難い経験ですから」

自らの身体が変わっても、姫様の言葉は配慮に満ちたものでした。
ゴシチゴデケツブッテ・イクイク・チンポソイヤという高名が、どのように受け取られるか、私には分かりません。その名で思い出すのは、数々の期待に応え王族として誇らしくある姫様の姿です。

姫様の特異な力は、詳しくは存じませんが、『望まれるようにある』というもので、そのため数々の教師がつけられていました。どのような努力を重ねてきたのか少ししか知りません。王女の側近である母の話や、遠巻きに見たくらいです。多くの課題を『王族の勤め』としてこなして行く姿を見て、そのひたむきな努力に感服したものです。
……私の尊敬が、私の望みとして、姫様への重荷となっていなければよいのですが。
姫様は悠然と微笑んでおられます。

学園の案内をされたあと、ついに学友となる三十ほどの級友と対面します。姫様を男として見るような日本人たちが、次にどのようなことを言い出すのか、気が気ではありません。

「ゴシチゴデケツブッテ・イクイク・チンポソイヤです。みなさま、ぜひともよろしくお願いいたします」

姫様に続いて、私も名を名乗ります。

「メチャツヨクブッテ・バチコン・ハイヨロコンデです。よろしくお願いします」

先頭に座っていた男子生徒が立ち上がり近づいてきました。

「よろしくと 挨拶がわりに 尻叩く」

攻撃動作をしたため私は急いで彼を取り押さえました。
しかし私は一人です、次々に生徒らは立ち上がり思い思いになにか言い募りながら手をあげ、そして振り下ろしました。姫様の尻を叩きます。

ひゃうん。と、その声は愛らしいものですが、男のものであるため、やや奇怪に思えます。
こんな仕打ち、即刻縛首です。手をあげたものを捕えようとして、しかし、かないませんでした。私の尻も叩かれました。姫様より身分が下と踏んだのでしょうか、かなり強く叩かれます。

生徒のみならず監督役の教師でさえ、もみくちゃになるほど騒ぎながら笑いながら何度も何度も尻が叩かれます。民のするような粗暴な祭りめいた狂乱に飲まれ、しかし、これが日本流のおもてなしなのでしょうか。
人の熱と波が収まる頃には、私は疲弊し切っていました。これほど無力を感じたことはありません。

無礼を働いたものたちはみな笑顔です。確かに姫様が言われたように害意はないようですが、王族である姫様への敬意もありません。特に今は男の姿ですから、次期王にも見えましょうに……。日本人は天皇にも暴力を振るうのでしょうか? ゴシチゴデケツブッテが軽んぜられているとしか思えません。

まったく訳が分かりませんが、姫様は楽しそうにしておいででした。目の前で主に暴力をふるわれ、止めることが出来ない私の、なんと無力なことか。いったい私に何ができるでしょう。
そのように尋ねると姫様は、姫様と呼ばぬよう命ぜられました。姫様は何事にも順応が早く……私の留学生活は大変困難なものとなりそうです。

 

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